::Re:mem:ber:: k










居酒屋に揃った面々の中で唯、一人嫌な顔をするアスマが居た。

その気配を向けている先には、酒肴にしては胃が焼けて吐き気をもよおす元となる最悪な同僚が居る。

アスマはが苦手だ。

彼女が帰ってくる度に身体検査をやらされている紅は、別に爆弾を仕掛けてくるでもないし意外と場を弁えているか

ら。と、同意を得られる事はなかった。

この三人の中であの矛先を向けられるのは先ずアスマに間違いない。それを知っていてカカシは面白がって彼女を

連れてくるものだから、アスマは尚やっていられなくなる。

だいたい第一印象が悪かった。長年の同僚を「カス」呼ばわりした挙句悪気も無しに毒を吐きまくる。はじめてこうし

て酒屋に連れて来られた時だって“お前には全く興味が無い”という顔をされ、最終的には「おい、そこのヒゲ先生」

とヒゲ呼ばわりされたのだ。

カカシに輪を掛けた様な厭味な奴だと、何度思ったか知れない。

けれどアスマも彼女を嫌うだけではなく、好感を持てるところはあった。以前、酒に酔った自分がふざけて紅に「色の

任」の事を口にしてしまった時だった。

いつもぽかんと開いている眉間に不快を示し、普段カカシやらを巻いてきた舌を更に饒舌にして語った言葉だ。



――色の任?君は本当にそんなものがあると思っているのか、髭だるま!“任務”とは、里へ以来されて火影に渡り、

暗部・上・中・下に分けられ判断されて勅命として下るものだ!正式な判断とルートを踏まなければ降りてはこない

“任務”だという事を、理解していないのか!?となれば、上忍は火影を侮辱しているのと同様だ!それとも貴様は、

任務を甘く見ているのか!?キサマが色の何とやらを請け負ったとでも云うのならばそれは、いつ、どこで、どの様な

ルートを通ってきたのかを、この場で明かせ。そんな馬鹿な事を云っているから、いつまで経ったって君は髭だるまな

のだ!!――



その時のアスマの顔は真っ赤だった。火影の有り方や、色の任を“任務”と呼んではならないことやら、この新人の上

忍に一気に大切な事を正されてしまった。

いつもは火影を皺じじいとか化け物とか云っているでも、その精神を馬鹿にする事は、里の人間として有ってはなら

ない事だと強く認識しているのだ。

その後はカカシが「男はこういう話が好きだからさ。少し多めに見てくれよ。な?」と仲裁に入ってくれはしたが、彼女

はカカシという次の標的に、新たな牙を向けていた。

それ以来、アスマの非常識な発言には稀に“キレた”が、その度アスマは反省し彼女を理解する。

この威勢の良い娘は、反条理的な事が嫌いで、里をとても愛しているのだと。

しかしそうは思っても、アスマはなかなか彼女が苦手だ。



「オレンジジュースだ!いい加減君も覚え給え!!」



あぁ、そうだな。お前は昔から、それが好きだったな……。

逃げる様に奥へ行った店員を見て、アスマは胃を抑える。人に対してももう少し理に適った態度をとれないものか。

黙っていればこちらが放っておけない様な顔をしているのに、少し残念なことだとも思う。まあ、例え減らず口が直った

としても、あの人を小馬鹿にする様な表情をする限りどうしようもないだろう。

アスマはひとつ溜息をつくと、オレンジジュースを啜るからカカシに視線を移した。

普段から絡まれているこの人間なら彼女のあしらい方を心得ているし、似た者同士なのだから理解しきっているのだ

ろうな……と、羨ましいんだか哀れんでいるのか判らない目で見てしまう。だから、今日二人の間に会話が無い事な

ど気が付いてはいなかった。

そうしているうちに、彼女に対して抵抗の少ない紅がに口を割った。



「ところで。任務の終った後一ヶ月間、何を探っていたか聞かせてもらえる?」



今まで誰も訊く事が出来なかった空白の時間を紅が問い質す。彼女が探っている情報と云えば正にピンからキリま

であるのだが、大仕事となれば、里の上忍たかが一人や二人出張ったところじゃ済まなくなるケースがあるからだ。

が一ヶ月もの間当たったものとあればそんな小さなものでないと紅は踏んでいる。

昨日、火影に報告がいったという事は、先二三日後には収集され任務が下るだろう。それも彼女の気紛れでなけれ

ばの話だが。

紅の企みとは、彼女からの逸早い情報提供だ。どうしてもが手掛けたい仕事であるならば火影に後押ししてもよい

と云う交換条件付きでもあるが、大抵彼女は何でも話してくれるのだ。

はいつも杜撰な説明をするので落差は激しいのだが、紅にとっては良い刺激となっている。

しかし今回に至ってはそうもいかないらしく、頭を横に二三度振った彼女は、つまらなそうに切り出した。



「まるで拷問の様な日々だった!やりたい事もやれはしないし、文句を云う張本人も居ないかったのだからな!」

「どう云う事?暗部の監視は切り抜けたって聞いたけど。思う様にいかなかったとか?」

「そうだ!その暗部だ!私は一ヶ月もの間、暗部認定試験を強いられていたのだ!!」



の言葉に紅は冷静に理解を示したが、他の二人はそうもいかない。

アスマは少し離れた所で煙草を吸うことも忘れぽかんとを見ているし、カカシはこの一ヶ月間何があったかまだ知

らなかったので、彼は彼で驚いている様子だ。

当の本人は表情筋をいっさい使ってはいない、だらしない顔で怒っている。



「それで結果は?」

「紅先生よ。君はそこに居るサル先生さえも暗部行きの許可が出ていると云うのに、私が落第したとでも思っている

のか!!それ程バカな話はない!」



その瞬間アスマは咥え煙草をポトリと落とした。

暗部認定試験。聞こえは凄そうだが、はじめて耳にする。が云う駄目上忍アスマにとっては、今の仕事さえキツイと

感じる時があると云うのに、更に上があるだなんて考えたくも無いと思っている。

そんな状態で居るアスマを見て紅は溜息をついた。

矢張り此れも若さ故だろうか。紅は思う。

中忍から上忍になったのが早かったせいか、暗部に声を掛けられるのも早い。この歳ではそんなに珍しい事でもな

いだろうが、課せられた試験と云うものが引っ掛かる。

それ程彼女は信頼がないのだろうか?

任としては共に仕事もし易く一目置かれている彼女が、多少私生活に支障があるとは云え火影も彼女を買っている

筈だ。



――暗部からの要請か――



納得のいかないものとは云え、は任務後に消息を絶ち単独行動を取る事が多い。

無理も無いわね……。一瞬、火影のすまなそうな顔が過ぎるが、自身も然程気にしている訳でもなさそうなので、

紅は思考を中断してカカシを見た。

はじまって間もない酒の席に普段よりもペースが早い様だ。今日はまだ一言も喋っていないし、カウンターに座って

いる自分たちと反対に隠れるみたいにアスマと呑っている。少し様子がおかしい様だ。



「ところでお前、その………暗部には行くのか?」



カカシの隣に居たアスマがカウンター席に居るの隣に腰掛ける。これは今まで見てきた中でははじめての行為だ。

相当ショックが大きかったらしい。

そんなアスマを軽く無視する上忍は、ストローで残りのジュースを吸い上げズルズルやっている。精神的ダメージを

ダブルで喰らったアスマが新しい煙草に火を点けると、はストローからぱっと口を放し「煙草を吸うなら向こうへ行

け!」と怒った。

天然ボケーのおじさん泣かせなものである。

酒も飲らない、煙も受け付けないたおやかな躰。その表面にあるオレンジで赤い唇が操る言葉だ。しかし次の瞬間に

はそんなアスマの落胆は消される。

再度ジュースの残りをジュルジュルやりはじめたが先程の質問にぽつりと答えたのだ。少し思案していたのだろう。



「暗部はそうだなぁ……。あそこに居る阿呆上忍による」



紅とアスマは反射的にカカシを見る。

向こうにも聴こえていた様で、なんだが罰が悪そうにカカシはどこかへ目を泳がせていた。










■ $ ■










あの後、ジュースが空になったとは帰って行った。いくら当人がいなくなったと雖も、あんな会話をしてしまっては

話は続いてしまう。

お節介かもしれないけど……と紅はカカシに何やら云っていたが、どんどん機嫌が悪くなるカカシに「ダメな大人ね」

と云い残し店を後にした。

本当は此処に居るアスマだって紅を送るなどしてやりたかったのだが、この状態の友人を一人残して帰る訳にも行

かない。

一つのテーブルを囲い寄り添う様に座ったアスマは、どんどんと酒を呷るカカシに肝を煎らせた。紅に相当キツイ事

でも云われたのだろう。無理もない。



「おいカカシ。お前も妙な爆弾抱えちまったな。」



アスマの同情する様な手がカカシの背に置かれた。

――酔ってしまいたい時に限って泥酔できない。

潔い彼女の事だから今日だってすっぱり自分を殴り、堂々と「私は暗部になるのだよ!」と、アスマや紅に云いたかっ

ただろうに。わざわざずるずると決断を延ばす様なマネをさせてしまった。自分の事など殴れなくとも、本気で彼女と

向き合う事で彼女は納得して巣立って行ったに違いない。

カカシだってあの中忍だったがここまで強くなってくれた事は嬉しかった。なのに何故それを止めねばならない責

任感などを持ってしまったのか。勝手にしろと云うのはとても簡単だ。しかし、あの時からもう“それが出来ない”事な

ど解っていた筈だ。

危ういあの後姿を思い出す度に心を締め付けられる。

――何故だ。何故他とは違う?

あの様な場面は幾度も見てきたというのに、彼女を何故区別してしまうのだろう。

そんなにあの背中が悲愴だったか!雨が!音が!

カカシは疲れていた。過去を探り、今日の事を思い出し、先程のや紅が残していった言葉。それに拍車を掛けて、

中途半端な酔いが回ってくる。



「……一寸飲みすぎだ。いい加減にしとかねぇーと明日に響くぞ?」



その言葉を景気にアスマは自分に喝を入れた。



「まぁ………なんて云うかなぁ。紅から訊いた事なんだが」



昔、中忍を誤ってレベル上の任務に就かせてしまった時の話をアスマは語った。あの後を追ったカカシは中忍の保

護さえ出来はしたが、結局任務は失敗に終った事。あの時の中忍がであった事は紅も最近知ったと云っていた。

被害は子供一人と云う事で、別段大きく取り上げる事も無く終った事件であったが、あの時出向いた忍――にとって

は、それがはじめての大仕事であった為ショックは大きいものだったに違いない。

その時のカカシとの間で何があったかは知らない。しかし上忍になって、わざと人を近寄らせない言動をとってい

る様にも見えなくはないあのが、妙にカカシには“懐いている”とさえ思う。放っておける筈が無い。放っておいては

ならないのだ。



「だからお前が……道を作ってやんなきゃいけないんじゃねーか、カカシ」



そこまで云うとアスマは、ふぅーと口から煙を吐いた。

全く嗤える話だ。紅といいアスマといい、どいつもこいつも同じ事を云う。久し振りに味わう良い酒は、カカシへの使命

を軽くした。










■  $  ■










その日カカシは激しい頭痛と戦い乍ら、彼女の部屋をノックしていた。早朝の四時だ。体は重いし、昨晩の酔いがま

だ冷め切っていないが、今から相手にする人間にはこれくらいが丁度良いだろう。

中ではガタン!バキバキバキ……というおかしな音が暫くしていたが、少し経った後には内側から控え目にドアが開

かれた。

立っているのは予想以上に阿呆面なだ。

目なんか瞑ったままなのに「やぁ……カボス先生」ときっちと相手を認識しているのが彼女らしい。

「何か変な音したけど、だいじょーぶ?」と云うカカシに、漸く目を開いたは「君のせいでテーブルを破壊したぞ!弁

償し給え!」と威勢よく怒鳴った。

なんせ自分も酔っ払った挙句の果てであるから文句は云えないが、この馬鹿っぷりにはどうしても呆れてしまう。

一頻りカカシは笑ったが、目的ははっきりしているので躊躇はいらない。



「弁償は後だ。一寸付き合ってくれ」



辺りはまだ暗い。霧が雨の様だった。






















白キっ。
ナルトの小説はまだまだ少ないのですが、初紅せんせーと初アスマせんせーでした。
なんか、何?キャラ違うとかアスマがどん底だとかってのはいいんだってばよ。(苦
途中コレ、アスマドリームなのかい?って錯綜された方。
カカシはただの酒豪として出演なのかい?と怒り狂おうかと思った方。
商品の説明書っていうのは最後まで読んでもらわなきゃ困りやすぜお客さん!

嘘です、スミマセン;;
また、お付き合い頂けると、嬉しいです><;


次読むよ。


ブラザを閉じてお戻り下さい。。